RTだいあり〜

 

暮れの小さな訪問者


昨年の暮れの話し。

クリスマス前の事だった。
1本の電話があり、それは、まだ幼稚園に通うくらいの小さな女の子の体験レッスンの申し込みだった。

かなり遠方から(京都府下。)だったが、とりあえず、約束をした。

体験レッスンの約束の時間、楽器を持ったかわいらしい女の子とそのご両親がレッスン室へ入って来られた。

色々と話しを聞きながら、まず、女の子の名前を聞いて、『Iちゃん、それじゃあ、早速、ヴァイオリンを出してみようか。』といってヴァイオリンを出して、今、弾けそうな曲を何でも良いからということで、弾いてもらった。

実は、レッスン室に入って来られた時から、ヴァイオリンのケースの大きさにかなり違和感があったのだが、案の定、
彼女が持って弾いている様子は、まるでムリしてヴィオラを弾いているような感じ。

まず、あまりにも楽器が大きすぎるのに驚いた。
おそらく、この子にとっては2サイズくらい大きい。

その事をご両親に聞いてみると、まず、ヴァイオリンをはじめたキッカケは、幼稚園で教育の一環として取り入れているとの事。

正規の幼稚園の授業以外でも課外レッスンとして、ヴァイオリンのレッスンを受けることが出来るらしい。
最初は、幼稚園で楽器を無料で貸してくれるということで借りていたらしいが、数ヶ月前に、その幼稚園の(先生の?)見立てで、今、Iちゃんが持っている楽器を購入されたらしい。
それも中古品。
だから、勿論安く購入できたようだし、それについては、何ら問題ない。
まず、一つ目の問題は、楽器のサイズ。

明らかに、左腕がピンと伸びた状態で1stポジションにしがみついて弾いている。
そうでもしないと弾けないサイズなのだ。

『何故このようなムリなサイズを購入したのか?』という問いに対して、『先生がこの子の為に選んでくださった。』とのご両親の答え。

あいた口がふさがらないとはこの事。

ただ、ご両親も、音楽の事は何も分からず、幼稚園の先生まかせですすめてきたが、(今回楽器のサイズの事は本当におわかりにならなかったらしいが。)そのレッスンの進度があまりにもはやすぎる(??)為、親子共々、ついていくのに必死で、くたびれてしまっているという。

聞けば、そのヴァイオリンを教えてくださる先生は、その園の理事長先生で、お年もそれなりに召されているよう。。。

そのレッスンの進度とは、とにかく、毎週、1曲ずつ新しい曲に取りかかるとか!
それも楽譜も読めない子供たちのレッスンで。

それも問題かもしれないが、Iちゃん自身、ヴァイオリンが好きな様子で、だからこそ、ご両親は元より、幼稚園の先生の言うことも聞き、ムリなサイズの楽器を高く持ち上げて、一生懸命弾く。
私が何より懸念したのは、そんなIちゃんの気持ちとは裏腹に体と精神はひたすら圧迫され歪んでいく。

ご両親の悩みとしては、基礎が出来ていないのに、どんどん進んでしまって、、、と、ヴァイオリンの事をご存知ないなりに、そう感じて、どうにか出来ないモノかとご相談に来られたわけだ。
願わくば、私の所へレッスンに通い、幼稚園へも通い。。。
そう考えたのだろう。

しかし、私が拝見したところ、Iちゃんの周りの大人たちは、この子の真っ直ぐな気持ちを平気で蝕んでいる。

ご両親に対して、お話したことは、
『Iちゃんはこれだけやる気があって、その気持ちだけで、この無理なサイズの楽器を弾きこなしてきた。しかし、これも彼女にとっては限界です。彼女は、大人の言うとおりに素直に言うことをきいてしまう。ご両親のおっしゃるように幼稚園の先生のレッスンも今まで通り受け、そして、たとえば私の所へもレッスンに通う。幼稚園ではみんながやるように装い、たとえば私のところでは、自分に合ったサイズの楽器できちんと弾けるようにしていく。そんな器用な事がこんな小さい子にできますか?大人にだってムリがある。そんな事をしたら、ますます彼女の肉体と精神をずたずたにしてしまいますよ!!第一大人の顔色ばかり見てしまうようになります。』

しかし、ご両親曰く。『でも幼稚園の理事長先生の手前、幼稚園のレッスン、それに幼稚園は辞められないんです。。。』

話をし出したあたりから、私の所へは来られないと確信を持ったが、その体験レッスン時間を延長しても、兎に角、できるだけの話をさせてもらった。
何しろ、小さな子供の将来がかかっている。

ご両親の『しがらみ』も理解できなくはないが、ご自分たちの愛するお子さん(の肉体と精神)とあと数ヶ月のつき合いの幼稚園の先生たちとのしがらみと、一体、どちらが大事なのだろうか。

最後に、Iちゃんのお父さんが『時間も長く見て頂いて、わがままを言って済みません。最後に、この子が今やっている曲を何何か弾いてもらえませんか?』、お母さんの方が少し遠慮がちに、『いくら何でも。。。』という表情をされたが、このご両親の為ではなく、Iちゃんの為に弾くことにした。(そんな大げさなものではないのだが。)
Iちゃんに『どの曲がいい?』と聞くと、今使っている教本の中から『コレ、霞か雲か』と言ったので、Iちゃんの方を向いて弾いてあげた。

すると、Iちゃんは満面の笑み浮かべ、『うぁ〜。』といって喜び、ご両親も、『ホンモノのヴァイオリンの音、聴いたことが無かったので、Iちゃん、よかったね!ムリを聞いて頂いてありがとうございます。』あとは、『先生が助言下さった事をもとにもう一度考えてみます。』といって帰られた。

幼稚園全体で、音楽を取り入れた情操教育、本来なら、とても羨ましい話しだし、とても良い話しであるはず。

しかし、その方向ややり方を一歩間違ってしまうと、折角、ピュアな子供達の肉体、精神、感性、、、をも歪めてしまい兼ねない。

Iちゃんは、その事を知らしめるために私の所へ訪れたかのようだった。

a-Column 1.42 arr by Reiko Yasuda Last Update : 2004/02/09